COLOR SOLUTION伝わる色の考え方・使い方

色の基礎から応用まで仕事で使える色彩学

#03

応用編

色名

色名の特徴と使用上の留意点

色を伝えるのに用いられるシステムの説明をしました。もう少し一般的な伝え方に「色名」があります。
そして、その色名には、基本色名、系統色名、固有色名、慣用色名等異なる表現の仕方があります。

  • 基本色名とは、色を言葉で表示する際に基本となる色の名前のことです。
  • 系統色名とは 赤、黄、緑、青、白、灰、黒等の基本色名に「明るい」「暗い」「灰み」などの修飾語をつけて色を呼び表す色の表し方です。JIS系統色名、PCCS系統色名等があります。
  • 固有色名とは、顔料や染料などの原料名をはじめとして、動物、植物、鉱物、自然現象、人名、地名など、その色から連想されるものの名前を用いて付けられた色名。昔からの伝統色名や長く日常で使われてきた慣用色名等も固有色名に含まれます。
  • 慣用色名とは固有色名の中で比較的よく知られ、広く使われている色名

さて、日常に目をやると、色を名前で示すのは一般的な行為でしょう。「そこのピンクの紙をとって下さい。」等と、お互いに同じ場所にいて、同じものを見ることができる条件であれば、キチンと通じて不便を感じません。

但し、色名を使う時には、少々気を使う方がよろしいでしょう。
色の名前は、JIS(日本工業規格)で慣用色名に関してマンセル値が示されていますが、あくまでも目安であり、色を名前で示す時は「範囲」であると認識していただいていたほうが良いでしょう。例えば「赤」は赤だと思われている範囲はかなり広い方ではないでしょうか。

下図は、「ピンク」と「紺」と言う名前に対して、色票を選択してもらうと出てきやすい範囲を示したものです。美術系の学生やデザインなどに携わっている人はもっと収斂した結果となりますが、一般的な職業の方などはここに示したより広い範囲に拡がる場合などもあります。

色の名前を頼りに購入するような場合には、自分の思っていた色ではないというクレームに発展することも考えられます。また、今年評判がいい色などと聞いても、色の名前だけでは、わからない場合もあります。ここで示したような130の色数では多く扱いにくいということで、企業ごとにカラーコード表を作成してデータ化して活用している企業も多いといえましょう。

地域・文化によって異なる色名

文化によって、色の表現や範囲は違うようです。オレンジ色の車と言う表現があっても、英語の表現では幅広い範囲を示す色名で、日本的な感覚では茶色であったというようなことが起こるようです。

日本の伝統色名は、植物由来や花の名前などが多く、豊かな植生を持つ気候風土が影響していると感じます。それに比べると英語やフランスの色名では、食べ物や飲み物の名前が付けられた色名が多く見られます。中国の色名は、鉱物の表現が多いでしょう。また日本では、江戸時代に役者の名前をつけた茶色の色名がはやりましたが、フランスでは社交界をリードした女性の名前が付けられた色名があるなど、文化によって異なる大変奥深く面白い世界だと思います。ルーブル美術館のポンパドール夫人の部屋の展示はピンクに覆われ圧巻でした。

ビーズワックス ファインクリーム(ポンパドールピンク)【SAPHIR】靴のシナガワ販売

フランスのセブール窯のポンパドールピンクのカップ&ソーサーはアンティーク好きな方には垂涎の的だと思います。現在でもフランスでは靴クリームにポンパドールピンクという色があって、お国柄だと感心させられます。

色名の違いの例でわかりやすいのは以下の例でしょう。
日本語で「桃色」は「桃花色」とも書き、花の色を示しています。それに比べると、桃の直訳でPeach(ピーチ)とすると桃の果肉の色を表す色名となります。化粧品等の色名で使われたり、飲料に桃の香りが使われたりして、ピーチと言う表現に慣れてきたので、この色名の違いも広く伝わるようになったといえましょう。商品名や宣伝コピーなどに使われると一挙に色名が浸透するようです。逆にいえば、あまり聞きなれない色の名前は、繰り返し使うことによって、大いに宣伝効果を上げると言ってもよいでしょう。

時代と色名

昭和18年当時の日本の色名を見てみましょう。これは、著者らが、戦時下で日本がこれまで大切にしてきた色が失われるのを憂い、代表的な色を見本つきで紹介するとした内容です。

  • 赤橙系統/蘇芳・紅梅・韓紅花・桃花・肉・赤蘇芳・銀朱・猩々緋・紅緋・黄丹・眞緋・そい(素緋(そひ))・柿・深支子・柑子・朽葉・赤白橡・小豆・葡萄茶・眞朱・檜皮・ベンガラ・代赭
  • 茶系統/焦茶・栗皮・鳶・蒲・黄櫨染・丁子茶・柴・丁子・柘黄・カーキー・桑・黄橡・香・黄土
  • 黄系統/山吹・藤黄・欝金・刈安・黄檗・支子・玉子
  • 緑系統/鶸・鶸萌黄・・萌黄・・緑青・白緑・松葉・山藍摺・海松・媚茶・青白橡
  • 青系統/茄子紺・納戸・紺青・琉璃・群青・白群・縹・浅黄
  • 紫系統/滅紫・深紫・二藍・・葡萄・深緋・桔梗牡丹
  • 黒鼠系統/墨・黒橡・皁・鈍・青鈍・利休鼠

_は筆者付記、現在「大学生が知っている色名であげられる名称」

出典:上村六郎・山崎勝弘共著「日本色名大鑑」 昭和18年 甲鳥書林

漢字ばかりで読むこともままならないのではないでしょうか。茶系統に分類されている色の中で、現代では黄系統に入れてもよさそうな色も入っている等、以前は「茶」の示す色相の範囲が広かっただろうということも分かってきます。色の名前は時代とともに捉え方が変化するようですから、興味深いとともに、丁寧に扱う必要を感じます。

現在でも学生が知っている色名としてあげることができる色名にアンダーラインをひいてみました。伝統色名などは、かつては実際のものがあってそれを示すように名づけられてきたわけですが、現代になって姿を消してしまうと、何のことを言っているのか想像もつかないということがあります。植物や花の色等今でも身近で確認できる色名はやはり生き残っているようです。

でも物資が少なくなる時代の中で著者の上村、山崎両先生がご尽力なさったように、現代でも日本の文化や色、色の名前が好きな方もたくさんいらっしゃることと思います。更に伝統の色名は日本ばかりでなく様々な地域や文化を示す興味深いものでもありますから、ますます研究が盛んになることを期待しています。

商品を活かす色名

「鯉のぼりの泳ぐ空」

色の名前が商品の魅力になっている事例はしばしば見られます。素敵な名前がついたことにより、人気にも火がつくことがあります。特に印象深いのは、「500色の色えんぴつ」(フェリシモ)でしょうか。 はじめの販売は1992年で、コロンブスのアメリカ発見500年の年だったそうです。500もの色の色名は慣用色名だけでは表現しきれないでしょう。そこで一つ一つオリジナルの名前をつけたそうです。お手本として最初に付けられた名前は「鯉のぼりの泳ぐ空」。五月晴れの空気の匂いや風のそよぎを彷彿とさせるネーミングです。それに習って、「雨上がりのあじさい」「南アフリカのフラミンゴ」などを担当の方が考えたということです。この時は2万セットを販売。さらに2009年、現在の社名になって20周年という記念の年に復刻し、7万セットの人気となったそうです。現在は販売されていないそうですが、商談スペースに置かれた500色の色鉛筆を目にした人は必ず質問し、購入を希望される方も後を絶たないようです。この色鉛筆を使って楽しめたことを紹介できるウェブギャラリーの立ち上げや、100セット売れると1セットを団体に寄付するなど、コミュニティを立ち上げたり社会的貢献に取り組むなど、様々な活動に展開されました。世界で唯一の色数をもったこの商品は日本を含む55カ国で売れたというように、質の良い製品を、買いやすい価格で分割して届ける通販ビジネスのシステムを上手く活用してこその販売だったでしょうが、いつの時代でも「色」と「心に響く名前」が人々も気持をひきつけてやまないことを証明しているように思います。

色名の今

最近のファッション誌に書かれている色名は実は非常に不安定です。写真を撮る際の光源の色に左右されたり、さらに印刷をする際にズレをおこしやすい色もありますから、そこに書かれた色名と、写真の色がずれたりしていることがしばしばありました。

そんなことも反映してか、最近の若い女性向けのファッション雑誌を確認してみると、あまり細かい色名を使っていないように感じます。白、グレイ、黒、そして赤と言う表現は見られるのですが、他は暗い色、キレイな色等と言うように方向性を示す表現をされています。また系統色名のように、パステルが人気というコーナーでは、ピンク、ブルー、イエロー、オレンジ、グリーン、パープルと区分され淡いトーンで紹介されています。淡いブルーのことを、イノセントなブルー、いい子ちゃんブルーなどと雰囲気を表す形容詞で修飾している事例が見られます。現代は、固有名詞的な色名より、基本色名、あるいは非常に一般的な慣用色名に雰囲気を表す形容詞を付け加えて表現する方が時流に合っているのでしょうか。これもまた魅力的な色の表現といえましょう。

一方、ややマダム向けになると、逆に非常に細やかな表現が試みられていて、これはまたビックリします。イエローベージュ、ピンクベージュ、カーキベージュ、オレンジベージュ、キャメルベージュ、サンドベージュ、ブルーベージュ、グレーベージュ。色の名前は、好んでいて詳しい人と、関心がない人との二極化が進んでいるのかもしれません。

色を名前で表す表現は時代とともに変化し、その時代をほうふつとさせる力を帯びるようです。色名を教養の為に覚えるだけでなく、その特徴や人に印象を与えるパワーに着目して、もっと積極的に活用したいものです。

Text by 株式会社 日本カラーデザイン研究所

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