INTERVIEWアーティスト・クリエイターズインタビュー

菊池 武夫

アーティスト・クリエイターが彩る色彩の世界

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メンズファッション界の第一人者が語る、〈色〉の観察眼とは?

菊池さんは、<色>という言葉からどんなことを連想しますか?

色には社会の何かが反映されていると思うんですけど、今って時代に色が無いじゃないですか。全体的に黒を基調に出来ているというか。昨日ね、たまたま知り合いが家に来て、昔の映画を持って来たんですよ。それは1968年頃の『ジョアンナ』という英国映画なんですけど、割とファッション的な要素が強いんです。それで当時のことを思い出したら、英国はものすごく色がきれいだった印象があるんですよ。当時の僕はそんなに強く色を感じなかったですけど、いま振り返ってみると、彩度のはっきりとしたブルーとか、黄色とか、ピンクとか、そういうものがふんだんに出てきて、ファッション性がすごく強くて、ものすごくかっこよかった。ところが70年代に入った途端に、今度は色が急に無くなったと思うんですね。

どんな特徴があったのでしょうか?

どちらかというと、黒を基調に濃いエンジ色だとか、濃いグレーだとかが世界的に蔓延して、僕個人とは別に全体的に色が無くなってきた。ファッション的に言うと、ここ2年くらい前から、色に戻りつつあるというか、割と色のあるものを使い始めてきていると思いますよ。僕はその動きを社会の動きみたいなものとしていますけど、僕自身にはあまりそういうものは当てはまらないですね。でも色は好きですよ。洋服なんかでは、コントラストがはっきりした色の使い方が楽しい。ただ自分のやっている仕事では、色はほとんどないかな。指し色で、アクセントにちょこちょこと入ってくるような感じですね。色ってやっぱりハーモニーだから、単色ではなくて、全ての色が組合わさるというか。あとは環境に依りますよね。

環境ですか?

例えばこの建物に関しては、僕自身は、すごくナチュラルなものの中に色が存在するような空間がいいのかなと考えたんです。ナチュラルなもの、アースカラーみたいなものが基準にあると、どちらかというと何にでも合いますから。白黒や3色のグレースケールみたいなものも、ビビットな強い色もきれいにね。だからそういう意味では、環境ってものすごく大事なんですよ。ビジネス街みたいなところで、バーッとガラス張りのビルの中だけにいたとして、そこにあまり色があったら、落ち着かないでしょう。そういうことも踏まえて、適応する色というのは環境によって随分違うんですね。

菊池さんご自身としては、何色がお好きですか?

僕はね、あまり色の好き嫌いがない。仕事でほとんど使うことはありませんけど、やたら蛍光色が好きな時もあるし、ポップアートのようなカラフルなものも大好きだし、その一方で、ものすごくモノトーン系のものも好きですよ。ドイツ人の女性アーティストだと思うんですけど、たしかカタリーナ・フリッチュといったかな。フランクフルトの現代ミュージアムに置かれてある彼女の作品がすごいんですよ。真っ白いテーブルに、10人10人ぐらいの真っ黒い洋服を着た男性、真っ白なんですけれど、全く同じ顔をして並んで座っている彫刻があるんですよ。それを見た時、白と黒の無彩色がものすごく現代を象徴していると感じて、なんて美しいんだと驚きましたね。アートにはそういう強烈な作品があって、それが魅力的に思えることもあるから、一概に何が好きとは断言は出来ないですね。良いものの裏には悪いものがあるけれど、逆転することはいくらでもある。それは色も全く同じであると思うんですよ。

なるほど。その考えを前提として、洋服作りでも菊池さんご自身の趣味を切り離して考えているのですね。

ええ。僕は、色自体には汚い色って無いんじゃないかと思うんですよ。ある色があまり好きではなくても、他の色と組み合わせることで、すごく良くなるということはいくらでもあるので、そういった視点で色を捉えていますね。

洋服作りにおいて、色使いで意識していることはありますか?

基本的には黒からグレー、ベージュ系、茶系があって、そのアクセントに黄色、オレンジ、ピンク、赤などを使ったりするんですが、グリーンって、僕らの業界では嫌われるんです。あまり手を出さないんですよ、売れないから。

グリーンが売れないのは如実に表れてしまうのですか?

ピンク系はすごく売れるけど、グリーンは売れた記憶がないですね(笑)。スポット的には少しはあるけれども、これはたぶん、日本だからということもあると思いますよ。日本人の肌の色とグリーンって、それほどの相性はない。紺とかブルー系はものすごく合いますよね。ベージュは大丈夫だけど、グリーンまではいかない。だから、自然とグリーンの洋服が無くなってきていますけれど、今はナチュラルでツイードという洋服もあるじゃないですか。そうすると、当然グリーン系も中に入っていますけど、なかなかメインにはならない。ただ、今はアウトドアファッションがタウンユースとして定着してきているので、草と一緒の色だからということで、グリーンの洋服がありますけど、ビジネスの世界にはほとんど存在しませんよね。

たしかに、スーツやシャツはもとより、ネクタイでもいわゆるグリーンはほとんど見かけませんね。

そうそう。だから、そういったカテゴリーというか、環境の中で分かれてくるんですよ。

秋冬の洋服でいえば、例えば、ツイード、ヘリンボーン、ウールといった素材が特徴的ですよね。素材によって色の映り方に特徴はあるのでしょうか?

それは全く違いますよね。非常に表面がボコボコした太い糸の組み合わせで活きる色というのもあるし、例えば、夏でよく使われる麻は、ダイレクトに強く染まらないから、ビビットな色が出にくい。ウールもね、色が出るようで出ないんですよ。特に色がはっきり出るのは、ナイロン系とかの化学繊維。素材によって、色の捉え方は変わってきますね。

素材の選択肢が幅広くなることで、発色のバリエーションも増えるのですね。

幅広くなっただけじゃなく、積み重なってもいるんですよ。だから、その中で良いものは残っていくし、どんどん使い方も伝わってくるでしょう。僕らは過去に遡って、時代に合った色をテーマとして使ったりもするけど、洋服の色に対しては、着る人の国民性が表れてくるんですよ。

例えば、どんな傾向があるんでしょうか?

フランス人はどちらかというとシックで、あまり色に対して積極性は無いけど、基本的に黒っぽいものが好き。そこに入ってくる色となると、ビビットな黄色とか真っ赤とか、強い色が入ってくる可能性が大いにありますね。でも決して、それが蔓延するなんてことはないから、あくまでスポット。ただイタリアに行くと、色を現実的にどんどん取り入れているから、ファッションの中でいえば、イタリア人が一番色を使っている可能性がありますね。ところが、イタリア人ってすごく新しいこともやるけど、自分たちの伝統を頑固に守ってるから、夏になると白いパンツを履くというような基調がきちっとあるんです。カラーパンツももちろん履きますけど、白を履いてる人の方が圧倒的に多い。

逆に日本人は、ほとんど白いパンツを履きませんよね。

履いてる人をあまり見ないですよね。あまり日本の気候風土と街、文化が白という色を持ってないんじゃないですか。

ファッションが文化として根付いているかどうか、という点も大きく関わっているような気がします。

それはありますよね、ものすごく。特に日本は、明治時代まで着物があったから、着物文化と洋服の文化の違いもあるし、それを融合出来るのかなと思うと、そう簡単なことではなくて。日本のモチーフを使って表現してもね、思いつきでやることはいくらでも出来ると思うんですけど、それを上手くやらないと、いつまで経っても本当の意味でマッチ出来るわけなんてない。最近は着物の方が変化して、もっと派手になっているというのもあるし、逆に洋服的な感覚が入ってきているのかなと思いますけどね。

洋服の中では、和物の感覚を落とし込むのは難しいですよね。

そうですね。京都に行ってみると、Tシャツとかを和物でやっているお店があるけれど、それでも一般社会に浸透するほどのパワーではないもんね。洋服と日本の元々の文化で出来ているものには、合わないところがあるんですよ。そういう課題を抱えているのは、逆に面白いといえば面白い。これは外国の人には分からないことですよね。

いまお話しいただいた比較論は、様々な国の文化に触れてきた菊池さんだから語れることだと思うのです。

やっぱり実社会で「百聞は一見に如かず」を体験して得たものと、写真や映像を見たりして感じたものとでは違いますよ。抜き出したものを見ると限られた情報しかないですけど、現地に行けば全部が見えるから。大抵の人って、旅先であらかじめ見るものを決めているから、それしか見に行かないでしょう。僕はヨーロッパやアメリカに好奇心を湧かせて、ものすごい回数で海外に行ってきたけど、あまり決められたことで動いた記憶はないんです。なんでも歩いて見たりするので、生な感じはありますね。

明確な目的地を持たない中でも、海外を訪れた時に意識的に見ようとするものはありますか?

どこに行っても必ず、美術館を見ますね。やっぱり、その時々に色々なアートを見ると、日本と違って終始自分たちの歴史にあるものが展示されていて、海外の美術館は蓄積が多いから、たくさん見れるものがある。あと街を歩いていると、旧市街みたいなものがはっきり残っているでしょう。日本だと浅草とか京都とかなんですけど、日本は旧市街の街並みを、ほとんど壊して新しいものにしたじゃないですか。それは戦争の影響かどうかは分からないけど、東京なんて特にそうだから、残念ですよね。日本のどこかに固まってそういうところがあったら、海外からそれ目当ての観光客がものすごく来るだろうし。今はやたらやみくもに、とりあえず建てただけっていう建築物もあるじゃないですか。

たしかに、無機質というか奥行きを感じないですし、勿体ないですよね。

そう。だから、東京駅を復元した、ああいったことには積極的に取り組むべき。それによって意識もずいぶん変わると思うし、色の再発見も絶対ありますよ。長い時間で変化しているから、元々のものを見るとまた、色の認識がすごく変わるということもあるだろうし。だから、古いものを大事にすることと、新しいものを作るということを絶えず一緒にやらないと、社会のバランスがおかしくなりますよね。バランスのとれた社会があれば、そんなに病気になる人も、精神的なストレスとかも感じないで済むと思う。今はそういったことが多すぎます。

昔のものを現代に落とし込んだ時にどう映るのか、どう面白く思えるのか。そういう視点はものすごく重要だなと思います。

重要ですよね。その点に関して、外国は幸せだと思う。古いものは大事に残しているしね。もうぶっ壊してしまったものは再現するしかないけど、ドイツなんかは戦争でめちゃくちゃにやられたから、欠けたレンガの一つひとつを拾って、復元の役に立てるっていう精神がある。やっぱりそういう点は見習うべきかなと。だからといって新しいものを否定している訳ではなくて、新しいものはそれでいいのだけど、新しさの中にあまりにも自由度がありすぎる。

ポジティブに解釈すると、多様化してどこにでも変化していけるのでしょうけど。

よく言えばそうなんですよね。この多様化している状況というのは、良いんだか悪いんだか分からない。複雑になってきているよね。世の中は繰り返しみたいなところもあるけど、繰り返しても必ず元には戻らないから、いつもその時代のものが加味されているんですよ。それを色に置き換えると、色同士の組み合わせが少しずつ変わってきているということなんだと思います。


プロフィール

菊池 武夫 / デザイナー、クリエイティブ・ディレクター

www.world.co.jp/takeokikuchi

1956年「原のぶ子デザインアカデミー」を卒業した後、佐藤賢司などと「服飾モダン・グループ」を結成。資生堂でコスチュームデザイン制作の仕事をした後、1970年に「株式会社ビギ」を設立。劇団四季の舞台衣装やTVドラマの衣装などを手掛け、メンズ部門が爆発的な大成功を収める。同部門を独立させ、1975年に「株式会社メンズビギ」を設立。1980年代中盤に巻き起こったDCブームの火付け役となる。その後、大手アパレルメーカーの「株式会社ワールド」へ移籍し、数々のブランドを立ち上げている。主な創設ブランドに〈TAKEO KIKUCHI〉〈モールラック〉〈ACEIFA〉〈40CARATS&525」などがある。2004年にブランドを後任に引き継いだが今年5月、8年ぶりに「TAKEO KIKUCHI」のクリエイティブ・ディレクターに復帰した。デザイン・ディレクター福薗英貴氏とともに新体制を組んでブランディングに関わる全ディレクションを担当し、アジアを中心とした世界進出も視野に入れている。昨年11月には新たなる旗艦店「TAKEO KIKUCHI渋谷明治通り本店」をオープンさせ、カフェやアトリエを併設し”人と自然にやさしい空気感”を目指したというコンセプトショップを通じて、新しい〈TAKEO KIKUCHI〉を発信していくという。

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