INTERVIEWアーティスト・クリエイターズインタビュー

山本 二三

アーティスト・クリエイターが彩る色彩の世界

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日本のアニメーションを支える背景美術の巨匠が語る<色>の概念とは?

山本さんはこれまでに数々のアニメーション作品の美術、背景画を手掛けてきましたが、その色彩感覚はどのように培われてきたのでしょうか?

小学生の頃から絵を描くことが好きだったので、よくスケッチの公募展に作品を出していましたね。中学校の美術の先生がすごくきれいな水彩画を描く方で、その人の影響が大きかった。生の色をあまり使わず、中間色で作る色合いがものすごく勉強になりましたね。当時は家にテレビが無かった時代ですから、アニメーションを学校の体育館で見たりしていました。東映の古い名作とかを見て、「絵具でこういう世界が出来るのか!」と知って、嬉しい気持ちになったのを覚えていますよ。

どんな色が好きなのですか?

日本の古い色合いの言葉に朽葉色というものがあるんですよ。源氏物語の頃から慣用されているそうで信号みたいに赤朽葉、黄朽葉、青朽葉とあって、スタジオジブリ時代から流行色になっていましたね。コバルトバイオレットとオリーブグリーンを混ぜると、腐葉土みたいな赤茶色が出来るんです。それを多用するとすごく良い絵になるので好きですね。あとは山下清さんがよく使うような亜麻色とかも。我々は絵具を混ぜる時にあまり同じような色を混ぜないんです。茶色を作るにはイエローの土色にブラックを足したりせず、グリーンにレッドをぶつけたりして作ります。スタジオジブリのアナログのセルを作る時は、大体そうでしたね。師匠や先輩から代々受け継いできたトラディショナルな色使いです。

色を塗っていく中でどんなことを意識していますか?

自然界にある色を使って描くことですね。逆にパソコンの中にある光で作られる色、例えば紫やグリーンのきつい色があるじゃないですか。そういうものは生理的に受け付けないんですよ。学生にも「自然界にない色は使わない方がいい」ってよく言うんですけどね。今まで仕事をしてきた監督の方々にも「自然界にある色を使いなさい」と強く言われてきました。アニメーションは虚構の世界なんですけど、その中で冒険したり生活したりする登場人物の舞台を描くために、現実の世界で勉強したものを使って表現するというか。見る人がすっと作品の世界観に入っていけて、感情移入できるような画面作りのために「自然界にある色を使う」ということが重要だと思っています。

いわゆるデジタルな作品は好きではないのですね。

ベテランがデジタルで描くならば、「もうアナログに帰ってこない方がいいよ」と僕は言っています。僕は美術監督をやる場合、絵を描く人にアナログでやってほしいんですけど、中途半端にデジタルに行ってしまったベテランはアナログに戻った時、彩度や明度の表現力がかなり殺されてるんですよ。スポーツと一緒で手は動かしていないといけないものですから、彩度と明度を奪われてしまって、人間の優しさみたいな色、血が通っているような色が吸い取られているように感じるんですよ。全然描けなくなってしまった人を知っているから、「戻ってくるな」と言うんです。デジタルに行くならば追求した方がいい。

ご自身としては、デジタルのアプローチで絵を描いてみようと思い立ったことはないのですか?

デジタルで届いたものはデジタルでしか修正出来なかったり、修正も早かったりということで、一時は勉強しようと思ったんですけど、選択肢が多すぎるので、やめました(笑)。光を透過光にするとか、昼間を夕方にするとか、そういった編集作業が必要な場合はスタッフにやってもらっています。今はアナログで描いた背景もスキャンしてデータで納品するようになりました。かつては締切がぎりぎりの時は「バイク便があと2時間でくるからそれまでに仕上げよう」などという計算があったのですが、今はすぐ送ることができますので便利だけどつらいような感じです(笑)

背景画の描写は精巧な作業という印象なのですが、道具はどのように使い分けているのですか?

紙はスタジオジブリも使っているTMKポスター紙の特厚口を使っています。潮流的に色んな会社もそれを使っていて、流行りみたいなものもあるんですよ。なかには高い水彩用紙を使う人もいますけど、僕はTMKポスター紙が一番使いやすいです。絵の具はポスターカラーやガッシュを使い、仕上げにエアブラシで暗くしたい時は黒っぽいインクを背景画にかけたりもします。例えば黒っぽい色のポスターカラーでブラシを重ねていくと煤けた印象になります。そうすると妖気が漂うというか、幽霊が出てきそうな雰囲気になってしまうので、そうではなく、透明さのあるインクやアクリルカラーを薄く溶かしたものでブラシをかけて明暗の調節をしたりすることもあります。

筆はかなりの種類を使うのですか?

そうですね。大きく分けて、日本画の丸筆、削用という筆、水彩用の平筆、日本画の空刷毛を使います。空刷毛でぼかしたり、アナログならではのテクニックもあるんですよ。スケールテクニックというものもあって、溝引きと呼ばれるものですが、筆とガラス棒を片手で握り、ガラス棒を定規の溝にあてて平行な線を引き、柱や窓を描きます。新人の頃は、職人が訓練するように、エアブラシとスケールテクニックを毎日のように練習させられました。目に見えるものはなんでも描けなければいけなくて、抽象画を描くこともありましたね。余談ですが、空刷毛を作る職人がどんどん減っているそうで悲しいことです。

やはり山本さんは『天空の城ラピュタ』(1986年)に代表されるような迫力ある独特の雲、「二三雲」のイメージが強いのですが、ご自身として最も得意とする絵も雲なのでしょうか?

そうですね。雲や空、森、炎、水や雪、手で触れない風のようなもの、そういった流動的な絵は得意というか、自分の好きなものですね。

「積乱雲」 ©山本二三
「菩提樹の春夏秋冬」©山本二三

いま挙げられたものを総称して、「五大元素」と呼んでいますよね。

「空・風・水・地・火」の「五大元素」は宮本武蔵が書いた『五輪の書』にちなんでいます。大学と専門学校の講師の依頼があり、どういうカリキュラムを作ろうかと考えていたことがありました。川尻善昭さんという監督の作品で美術監督をやった時に、お墓のシーンがあったんです。戦国時代のお墓の写真を探していたら、五輪の意味を知り、気付いたんですよ。まずは空を書かなければ、手前のものは何も書けないということに。

ちなみに、「二三雲」はどのような経緯から生まれたのですか?

宮崎駿さん演出の作品に初めて参加した『未来少年コナン』(1978年)は、乗り物で空を飛ぶシーンが多い作品だったので、たくさん雲を描いていました。我々は「密着マルチ」と呼ぶんですけど、マルチプレーンといって車窓の風景みたいにスピード感が違って、手前のものが早く動いて見える技術があって、宮崎さんから「積乱雲を何枚か重ねて雲の流れを表現してくれ」と言われたりしました。あとは『天空の城 ラピュタ』(1986年)を、当時大学生だった細田守さんが見ていて、「『時をかける少女』(2006年)であの雲を表現してほしいです」と言ってくれたのです。それから「二三雲」と言われ始めました。

じゃあ、7年前のことなんですね。

だいたいそうだと思います。『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)や『名探偵ホームズ』(198年)に出てくる、プロペラが回る飛行船の絵を描くのが上手いアニメーターがいるんですよ。テレコムアニメーション・フィルムの友永和秀さんは「プロペラの友永」と呼ばれていましたね。『カリオストロの城』の作画監督をやった大塚康生さんは「水の大塚」と呼ばれていて、そうやって名前が付いていくんですよね。

「二三雲」を描く時は、特別な感情が働くのでしょうか?

例えば主人公が男の子だったら、積乱雲の影を強くしたり、青空を強くしたりしますけど、主人公が女性だったら、紫を強くして少し淡い感じの空にするとか、そういう優しい雲にしますね。優しさの表現は『赤毛のアン』(1979年)の頃に先輩から教わりました。42歳の若さで亡くなってしまった井岡雅宏さんという美術監督は、北海道出身の人で絵の空気感がすごく澄んでいます。僕は長崎県出身で湿度が少し高い感じの絵だと言われたりします。僕は寒い地方の絵を描くのがちょっと苦手なんです。雪景色とかダイヤモンドダストの空とかね。今にも溶けそうな雪になってしまう(笑)。逆に、梅雨時の植物は好きですよ。南の植物、屋久島の苔とか。

美術監督を務められた『もののけ姫』(1997年)の中盤からは、まさに屋久島の風景がモデルとなっていますよね。

そうですね。屋久島には6泊ぐらいで行きましたけど、なるべくシナリオや原作に沿った時期を選ぶんですよ。晴れだけでなく雨のシーンも撮らないといけなかったし、地理的に熱帯植物があるかと思えば、寒いところに生えるような植物もあったりして、それを描くためには写真に収めなければいけないんです。『もののけ姫』は美術監督が5人いますが、映画前半の森は秋田県の白神山地がモデルで、秋田出身の男鹿和雄さんが担当しています。

綿密な取材を経た上で、山本さんの絵は成り立っているんですね。

今は故郷の長崎県でやる展示用に「大浦天主堂」を描いてるんですけど、取材に行った10月の雰囲気と、あの立派なカトリック教会が持っている慈悲深さとか、そういうものを雲と空の色合いでどうやって出そうかと考えています。僕が監督をやった『ミヨリの森』(2007年)の時は岐阜県の白川郷と富山県の五箇山に行きました。原作の始まりは雨の日で、トンネルを越えると雨がやんでいて、山の麓に雲が棚引いているという絵なんですが、まさにそのとおりの景色で驚きました。『Coo 遠い海からきたクー』(1993年)の時は、フィジーに行って、珊瑚礁の絵を描かなきゃならなかったので、自分でシュノーケリングをしましたね。

山本さんの描く背景は、単に背景として一部を構成するのではなく、場面の空気感や登場人物たちの心情さえも表現していると感じるんです。

『赤毛のアン』の時のことなんですけど、アンの純粋さを表現するために、「部屋の中でも外でも優しい色合いを使おう」と、美術監督の井岡さんと話したんです。優しさとか温もりとはなんだろう、とも話しました。絵が熱を持って見えるというか、例えば、砂漠を描いたら少し赤を強くするとか、アンニュイな夏の夕景を描く時は光と影の境界に赤を足してあげるとか、香りや温度、湿度を絵で描き分けられなければならない。そういうことが表現出来ている絵のことを、宮崎さんは「絵にオーラがある」って言っていましたね。

40年以上、日本のアニメーション作品と関わってきましたが、今と過去の絵を並べてみて、作品に向かう意識やアプローチでどんな変化があると振り返りますか?

若い時は『未来少年コナン』をはじめ、テレビシリーズの作品が多かったので、時間との闘いでしたね。時間と体力が許す限り、クリエイティブなものを作ろう、絵のクオリティを上げようと努力してきたんですけど、いま思うともっと努力出来たんじゃないかなと思います。当時は録画も出来ない時代だったから、家に走って帰って見たいぐらいの作品として喜んでくださる方々がいたのは嬉しかったですね。劇場用の作品をやるようになったのは『カリオストロの城』からで、劇場用になると制作スケジュールが1、2年になります。そうすると、時間の使い方も変わってきます。テレビシリーズでは短時間で描いていたのが、映画では2日以上もかけて描くこともあります。『もののけ姫』のシシ神の森の背景一つで2週間もかかったものもあります。状況に合わせて、時間をかけることもかけないことも、どちらも大事だと思います。

本日は貴重なお話、ありがとうございました。


プロフィール

山本 二三 / 美術監督

www.yamamoto-nizo.com

1953年6月27日生まれ。長崎県五島市(旧福江市)出身。
子どもの頃から絵が得意だった山本は、高校で建築と絵画を学び、
美術系専門学校在学中にアニメーションの美術スタジオに勤務。その後、テレビアニメーション「未来少年コナン」(1978)で自身初の美術監督を務め、以降、「天空の城 ラピュタ」(1986)、「火垂るの墓」(1988)、「もののけ姫」(1997)など、美術監督として数々の名作に携わる。
2006年、アニメーション映画「時をかける少女」で第12回AMD Award’06大賞/総務大臣賞を美術監督として受賞。近年では、フジテレビ系土曜プレミアムにて放送された「ミヨリの森」(2007)の監督、NHK総合の環境特番のひとつとして放送された「川の光」(2009/第18回こどもアースビジョン賞受賞)の美術監督や、「第61回神奈川県全国植樹祭」(2010)の式典アトラクション用映像で監督を務める。
そして2011年、神戸ビエンナーレ2011 プレ・イベント「日本のアニメーション美術の創造者 山本二三展」が神戸市立博物館で7月16日から9月25日まで開催され、来場者約8万5千人という盛況をもって終了。今後も全国の巡回展を予定。
現在も絵映舎代表として、また美術監督、演出家として活躍を続けながら、自身のライフワークでもある、出身地の五島列島を描く「五島百景」にも挑戦中。
迫力ある独特の雲の描き方は業界で注目され、「二三雲」と呼ばれている。

五島ふるさと大使
京都造形芸術大学 アニメディレクションコース客員教授
東京アニメーションカレッジ専門学校 講師

作品歴(抜粋)
1978年 未来少年コナン (美術監督)
1979年 ルパン三世 カリオストロの城 (背景)
1981年 じゃりン子チエ(劇場版) (美術監督)
1986年 天空の城ラピュタ (美術監督)
1988年 火垂るの墓 (美術監督)
1991年 おにぎりころりん (監督・キャラクターデザイン・美術)
1993年 Coo 遠い海から来たクー (美術監督)
1997年 もののけ姫 (美術監督)
2004年 ファンタジックチルドレン (美術監督)
2006年 時をかける少女 (美術監督)
2007年 ミヨリの森 (監督)
2009年 川の光 (美術監督)
2010年 くまのがっこう (美術監督)

<インフォメーション>
■アニメーション映画 『希望の木』
公式サイト:http://kibounoki.com/

■日本のアニメーション美術の創造者「山本二三展」
~天空の城ラピュタ、火垂るの墓、時をかける少女~
会  期  2013年2月9日(土)~3月10日(日)
開催時間  9:00~17:00(入場は16:30まで)※毎週金曜日は20:00まで開館
会  場  大垣市スイトピアセンター(岐阜県)
入場料   一般(高大生含む): 600円 ※高校生以下 無料
主  催  公益財団法人 大垣市文化事業団(大垣市指定管理事業)

■iPhone、iPad用アプリ 『菩提樹の春夏秋冬』
価格 : Pre Edition(体験版)  無料 /Full Edition(有償版) 500円(税込)
掲載カテゴリ   : 教育、エンターテイメント
URL(AppStore) : https://itunes.apple.com/jp/app/four-seasons-pu-ti-shuno-chun/id566488432?mt=8

■iPhone、iPad用 絵本アプリ 『歩き屋フリルとチョコレートきしだん』
リリース日:2013年2月17日(日)
公式サイト:http://www.cucuri.co.jp/furiru.html
リリース記念イベント(原画展・朗読・対談・サイン会):2/17(日)
http://www.cucuri.co.jp/furiru_event.html

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