川村 真司

アーティスト・クリエイターが彩る色彩の世界

日本が世界に誇るクリエイティブ・ディレクターに〈色〉について語って頂きました。

川村さんのクリエーションにおいて、<色>はどんな意味合いを持っていますか?

どちらかというと、基本的には色自体にあまり意味を持たせないようにしているところがあるかもしれません。僕は、いろんな要素をなるべくそぎ落として、核になるアイデアをシンプルに表現することが多いんですね。だから、色についても、基本的にはそのものがあるべき色をそのまま使うことがほとんどで、例えば、机ならシンプルに茶色が良いと思うし、その他も全体的に白や黒などモノトーンが多いです。意図的に奇抜な色のコンビネーションを作って、人目を引くような見せ方をすることはほとんどないですね。

andropの最新ミュージックビデオでは、<色>がテーマになっていましたね。

今回の楽曲はトリプルA面シングルの一曲で、CDジャケットのモチーフにも3色を使った図形が使われていました。RGB三原色をテーマに、バンドの音楽性や楽曲の多様性を3つの視点から描くようなイメージで作られていたので、MVもそれを一曲の中で表現できないかと考えました。特に今回は楽曲自体に熱量を感じたので、これまでミュージックビデオでは姿を見せていなかったバンドメンバーたちに出てもらいたかったんですね。最近手がけていたミュージックビデオは、インタラクティブな要素が強く、デジタルなものがほとんどだったのですが、今回はバンドの身体性や演奏のドライブ感を、本人たちをストレートに撮ることで表現したかったんです。

たしかに川村さんの手がける映像作品は、ソーシャルメディアを用いたものや、ゲーム性を持たせたものなど、インタラクティブな要素が強い印象があります。

そうですね。ただ、インタラクティブなことをしたいということが先にあるわけではないんです。あくまでも毎回楽曲のテーマに合わせながら、深い映像体験、視聴体験を創り出していく上で、インタラクティブな表現が適していることが多かったというだけなんです。そういう意味で今回は、楽曲のテーマにひとりの人間の多面性というものがあったので、それをRGB分解という手法を使ってうまく映像だけで表現していけないかなと。

実際に制作をしてみて何か発見はありましたか?

色の不思議や面白さというのを改めて感じたし、とても勉強になりましたね。ひとりの人間がRGBに分解されて、それらが重なるとまたフルカラーになるという仕組みになっていて、例えば赤と青が重なると紫になるというところくらいまでは分かるんですが、やっていくなかで自分たちの理解を越えた予想のつかない色の変化などもあって、それがとても面白かったし、大変なところでもありました。レイヤーの重ね方次第で見え方が変わってしまうので、その辺の整合性を考えていくのは頭の痛い作業だったし、いまだになんでそうなるのかという原理の部分はちゃんと理解できていません(笑)。でも、色や光というのは映像のベースになっているものだし、どういう原理で人間の目に色が見えているのかということなどを知るのはスゴく面白いし、その原理の部分にまだ新しい発見があるような気がしています。

色の仕組みや原理への興味が強そうですね。

メチャクチャ好きですね。そもそも物事の仕組みや裏側にあるプロセスなどへの興味が強いんです。僕は映像をやっているので、映像やアニメーションの原理やプロセスについて考えることも好きで、企画・制作を担当している「テクネ」というNHKの番組では、色んな映像クリエイターたちの制作プロセスを紹介したりもしています。個人のクリエイターにしても、会社などの組織にしても、制作プロセスを見ることはスゴく好きで、勉強になることが多いです。

今回のミュージックビデオもそうですが、川村さんの作品は、そうした物事の原理や仕組み自体をテーマにしているものも少なくないですよね。

常々考えていることなんですが、クリエイティブのプロセス自体を新しいものにすれば、出来上がったものは必ず新しくなると思っていて、それを普段から実践しているつもりです。僕は作品のメイキング映像なんかもよく残しているのですが、それも新しい作り方のプロセスを開示したいという理由からです。そのプロセス自体もエンターテインメント・コンテンツになるんじゃないかと考えていて、作品の前後も含めてトータルで体験を提供したいという思いがあるんです。また、一度やった手法は繰り返さないようにしているので、毎回その技法を使ったベストの表現をするということを心がけています。それは結構しんどいことではあるんですが(笑)、そこがクリアできれば、作品は絶対新しいものになるだろうという確信があるんです。

これまでに手がけた作品で、<色>をテーマにしたものは他にも何かありますか?

以前に、本をパラパラめくると虹の残像が見える「RAINBOW IN YOUR HAND」という本を作ったことがあります。印刷物である本の、印刷面ではない部分に着目した実験をしてみたかったんです。厳密には色ではなく、光や残像というところがテーマなのかもしれないですが、虹の残像がよりよく見えるように、紙の色を黒にして明度差をつけるなど、色についてはかなり意識して作っていった作品です。

CMYKで表現されるプリントメディアと、RGBで表現される映像やWebなどのディスプレイメディアでは、色に対する考え方や捉え方は変わってくると思いますか?

基本的には、どっちも色は色かなと思っているところがありますが、それ自体がスクリーン上で発光しているRGBと、反射光によって認識されるCMYKの印刷メディアでは、どうしても見え方などは変わってきますよね。ただ、RGB、CMYKの違いというよりも、それを「色」として捉えるか、「光」として捉えるかの違いの方が大きいかもしれないですね。色が絵具やインクによって表現されているものと、光で表現されているものがあるなかで、僕個人としては、色というものを光として認識しているところがあるのかもしれません。

色には、今まで話してきたような科学的な原理があると同時に、数値化できない感覚的な部分も重要な要素になってきますよね。

そうですよね。国や地域、人種によって色の認識の仕方は違いますからね。例えば同じ赤でも、それを「スープ缶の赤」と感じるか、「東京タワーの赤」と感じるかというのは、その人の環境や経験によって変わりますよね。その中のどの基準で色を判断していくのかというのはとても難しい問題ですし、どうしても伝えきれない部分というのもあるのかなと思っています。以前に、あるクリエイターがプレゼンで色を伝える時に、自然物を拾ってきて、それを見せて伝えているという話を何かの本で読んだのですが、その気持ちは少し分かる気がします。カラーチップなどによって数値化されている色を指定するだけでは伝わらないニュアンスというのもあるんだと思います。

ところで、川村さん自身の好きな<色>というのはあるのですか?

僕は、微妙な風合いが出ているような色が好きなんです。だからいつもグレーっぽい服ばかり着ていたりするんですが(笑)、何十回も洗いざらした洋服の黒とか、使い古された皮の茶色とか、使用感やストーリーが感じられるものが好きで、自分の身の周りのものに関しては、そういう指標で見ているところがありますね。さっきの自然物の話じゃないですが、それは「Y100」みたいな数値で表せるものじゃないですよね。自分が作るものと直接関係しているかはわからないですが、普段はそういう色に惹かれるところがあって、繊細なニュアンスの違いがうれしくて、その色のためだけに高いTシャツを買ってしまったりということもあります(笑)。

ありがとうございました。


プロフィール

川村 真司 / クリエイティブディレクター

prty.jp

数々の海外広告代理店を経て、現在東京とニューヨークを拠点とするクリエイティブ・ラボPARTYを設立し、クリエイティブディレクターとして在籍。幾多のグローバルキャンペーンを手がけつつ、「Rainbow in your hand」のようなプロダクト・デザイン、SOUR「日々の音色」やandrop「Bright Siren」のミュージックビデオのディレクションなど活動は多岐に渡る。主な受賞歴に、カンヌ国際広告祭、文化庁メディア芸術祭、NY ADC、等。2011年Creativity誌によって「世界のクリエイター50人」に選ばれた。