舘鼻 則孝

アーティスト・クリエイターが彩る色彩の世界

日本の未来を担う若きシューズ・デザイナーが考える〈色〉とは?

<色>と聞いた時に、舘鼻さんはどんなことをイメージされますか?

まず、「何をもって<色>と言うのか?」ということが難しいですよね。工学的に言えば、僕らは光の反射によって色というものを認知しているわけじゃないですか。でも、世の中には目が見えない人、色が認識できない人たちもいて、でもその人たちにとっても色というのは存在していて、それは僕が視覚的に捉えている色とはまた違うと思うんです。また、色だけが単体で存在する場面というのはあまりなくて、例えば、「赤」と言われた時に、パネルに色が塗られたような純粋な赤い色面を想像する人はほとんどいないですよね。僕だったら、以前に母親に作ってもらった赤いセーターを思い浮かべますが、他の人の頭の中にはまったく違う赤のイメージがある。人それぞれの経験や記憶などが、色の認識には大きく関わっているのだと思います。

現在の舘鼻さんの色彩感覚も、幼少期からの経験や記憶がもとになっているところがあるのですか?

それはあると思います。僕は鎌倉育ちなので、海や空の青、自然の緑などが強く印象に残っています。自然の色には時間軸があって、例えば植物は紅葉して色が変わっていったりするじゃないですか。また、家の近くの神社の鳥居の色も印象に残っているんですが、こうした鳥居なんかにしても、時間をかけて朽ちていくなかで、朱色から薄いオレンジ色に変わっていくんですよね。そういう一言では説明できない色というものがきっとそれぞれの人の中にあって、そこには幼少期の体験や過ごした時間などが関わっている。それはとても興味深いことだなと感じます。

舘鼻さんは学生時代に染織を学ばれていたそうですが、その経験は色について考える上でも何かしら影響を与えていますか?

染織で学んだことが直接的に結びついているかはわかりませんが、日本の伝統的な文化や技法を学んできたので、例えば着物に使われていた色の合わせ方などがインスピレーション・ソースになったりすることはあります。また、いま作っている靴はすべて自分で色を染めているのですが、そうした技法的な部分にしても、大学時代に自分で染料を混ぜて色を作っていた経験などがベースになっているところはありますね。

日本には数え切れないほどの伝統色がありますが、日本人や伝統文化が培ってきた色彩感覚について何か感じることはありますか?

やはり日本は自然が豊かだったというのが大きいと思います。だから、植物や果物、鳥などがそのまま色名になっていたりするんだろうし、自然に対する意識が強かったんでしょうね。また、例えば、琉球王朝では王族が着る衣服の色は黄色と決められていたのですが、「神聖さ」など色に特定のイメージを持たせていくことも日本人は上手な気がします。先ほど話した鳥居の朱色などもそうですよね。

レディー・ガガも愛用している舘鼻さんのヒールレスシューズは、祇園の舞妓さんなどが履いていた下駄がインスピレーション・ソースになっているそうですが、色に限らず伝統的な日本文化を世界に発信していくという意識が強いのですか?

そうですね。例えば、日本人がいまも下駄を履いていたらこういう形に進化したんじゃないかとか、戦後さまざまな文化や人種が入り混じることで緩やかになってしまった日本文化の進化を補う形で、世界の中の日本というものを表現したいと考えています。だから、レディー・ガガがインタビューなどで僕の名前を出したり、履いている靴が日本製であることを話してくれるのはうれしいことですし、それが徐々に世界に伝わりつつあるという実感もあります。ただ、作る段階で日本というものを意識しすぎるのではなく、自分のバックグラウンドを理解した上で自然にもの作りをしていれば、それはかってに自ずと伝わっていくんじゃないかと思ってやっています。

ご自身のクリエーションにおいて、<色>をどのように考えていますか?

通常、人間の目に最初飛び込んで来るのは光の明暗。それから形、立体。色の彩度というのは最後の認識なのです。厳密に言うと、黒も白も色ではなく無彩色と言われるんですが。僕が作った靴を履くのがどういう人たちで、その人たちにどういう捉え方をされるのかというのはよく考えます。僕は基本的に、スゴく気になる色か、まったく気にならない色のどちらかに振り切ることが多くて、例えば今シーズンであれば、靴として最も"気にならない色"は何かを考えていった結果、黒を使うことにしました。逆に、赤色だけでコレクションを構成したこともあるのですが、その時は、自分のアイデンティティを主張できる強い色という基準で赤を選びました。

色そのものに具体的な意味を持たせているわけではないのですね。

そうですね。いまお話した赤というのは数値的に見て最も彩度が高い色で、前に出る膨張色でもあるのですが、自分が作った靴を履いてもらうことで、その人に一歩前に出てほしいという思いが常にあって、そういうものが色使いにも反映されています。レディー・ガガのようなすでに個性が完成されている人は特別な存在で、もっと挑戦をしたいと思っている人にこそ僕の靴を履いてもらいたいと思っています。履くことで一歩前に出る勇気が与えられるようなものを作りたいし、僕の作る靴によって自信を持って外を歩ける自分になってほしいという思いがありますね。

舘鼻さんのフィールドであるファッションの世界において、<色>はどんな役割を持っているとお考えですか?

ファッションの世界にはトレンドカラーというものがあるように、色には時代を表現していくという役割が強いと思います。また、例えば僕が勉強してきたアートというのは、作品のすべてに主張やメッセージがあるという前提で見るものなので、色に関しても社会的な意味合いというものが強く反映されるのですが、一方でファッションにおける色というのは、より個人の気分や感情に訴えていくものだと思っています。

舘鼻さんの作る靴は、彫刻作品を思わせるほどアート的な要素も強いように感じますが、アートとファッションの違いについてはどのように考えていますか?

造形的な面ではあまり違いはないと思っていますが、コミュニケーションの対象が「社会」であるアートに対して、ファッションはあくまでもそれを身につける「個人」に対するコミュニケーションなんです。例えば、一枚のシャツが「NO WAR」を訴えることはないですが、アートというのは、長い期間をかけてそうしたメッセージを色んな人たちに訴求していくものですよね。ファッションというのは瞬発的な訴求力は強いですが、アート作品のようにタイムレスにメッセージを発し続けていくわけではない。そういう意味では、自分が作っている靴に文化的な価値が生まれてほしいとは思いますが、アートをやろうとするなら自分のブランドとは別の場所でやればいいかなと考えています。

舘鼻さんが完全受注生産で靴を作られているのも、ファッションの特性である個人とのコミュニケーションに徹していることの現れなのかもしれないですね。

そうですね。僕が作っているものは、僕とお客さんの間を媒介するコミュニケーションツールなんですね。こちらが相手に履かせたいものを作って、それを無理矢理当て込むのではなく、お客さんとの会話があって初めて生まれるものを作りたい。そうしたコミュニケーションから生まれたものが、それを身につける人を喜ばせてくれるというのが、ファッションの良いところですよね。身につけるものがその人のアイデンティティになっていくということにスゴく可能性を感じるし、履いているその人がオンリーワンになれるような靴を作ることで、ファッションというコミュニケーションツールの効果を最大化していけたらいいなと思っています。

本日は貴重なお話をありがとうございました。


プロフィール

舘鼻 則孝 / シューズデザイナー

noritakatatehana.com

1985年、東京に生まれる。15歳の時より靴や洋服の制作を独学で始める。その後、東京藝術大学にて染織を専攻し友禅染を用いた着物や下駄の制作をする。全ての工程を手仕事により完成される靴のコレクションがファッションの世界にとどまらずアートの世界でも注目を集めている。 2010年、舘鼻は自身のブランド “NORITAKA TATEHANA”を設立。ニューヨーク、FITにある美術館では、舘鼻の2010秋冬コレクションが永久収蔵となり、現在はレディー・ガガやダフネ・ギネスへ作品を提供している。