ファンタジスタ歌磨呂

アーティスト・クリエイターが彩る色彩の世界

色に縛られないから、迷わずバンバンいける。

歌磨呂さんにとって、イラストやデザイン、アートに興味を持った入口はなんですか?

子どもの頃から絵を描くことが好きだったんですけど、引っ越しが多い自分にとっては、友達とのコミュニケーションツールでもあったんですよね。絵を描いて人との距離を測ることをしていて。やっぱりマンガは好きでしたし、僕はジャンプっ子でドラゴンボールが好きだったから、友達に孫悟空を描いてあげたりして。でもそれ以上に、アニメが大好きだったんですよね。子どもの頃は「将来はアニメを作りたいなぁ」と思っていましたね。

マンガよりもアニメの方が好きだったのはどうしてですか?

アニメは絵が動くということが好きなんですよ。アニメーションっていう言葉はラテン語の"anima"が語源なんですけど、「命が生まれる」っていう意味なんですよね。それを知って感動したんですよ。絵に時間軸が加わることで命が生まれる。「それって魔法みたいだなぁ」と子どもながらに思って。実際、アニメーターにはなっていないですけどね(笑)。

今の生業であるデザインの領域に関わりたいと思い始めたのはいつぐらいのことですか?

高校の時に進路をどうしようかなと考えて、当時はCGが流行り出していたんで、3Dのコンピューターグラフィックスが面白そうだなと思ったのがきっかけですね。それで在学中に専門学校にも通ったんですけど、自分の肌には合わなくて。そこから美大という選択肢が出てきて、美大に行きたいなと思い始めるんですよ。でも、美大は倍率が高くて、入るのもなかなか難しいじゃないですか。美術予備校があることを知って、地元の美術予備校に通うようになるんですけど、すごく感動したことがあるんですよね。僕って見た目ではアニメとか好きそうには見られないんですけど、エヴァンゲリオンが好きだってことを当時は誰にも言えなくて。

それはどうしてでしょう?

高校時代は周りにエヴァを見ている人が一人もいなかったんですよ。周りにも不良系カジュアル友達が多かったし、当時はアニメもオタクのものっていう感じで、まだ今のように流行ってもいなかったんですよね。それでエヴァンゲリオンが超好きでも誰にも言えず、毎週VHSでテープが擦り切れるぐらいに見るなんてことをやっていて。

悶々と独りでアニメを見るような高校生だったんですか?

そうそう。美術予備校に行ったら、B-BOYみたいな人だったり、すごくオシャレな人だったり、色んなファッションの人がいて。そのビジュアルのインパクトから「うわ、すごく面白いな」って思っていたら、いきなりその人たちがAKIRAとかエヴァンゲリオンの話を普通にしてるんですよ。それで「うわぁ!」と衝撃を受けて、「ちょっと俺も混ぜてよ」みたいな感じで輪に入ろうとして。だから自分にとっては美大が良かったというわけではなくて、美大を目指している人たちのバイブスがすごく自分と近かったことが、今の仕事に就きたいと思った根底にありますね。

本格的に絵を学ぶようになって、どんなことから影響を受けましたか?

自分は絵を描くことはすごく得意だったけど、例えば、デッサンは勝手が全く違うというか。デッサンって、立体的にモノを見る訓練なんですけど、自分にとっての意識改革でしたね。コーヒーカップだったらこういう形っていう、いかに自分が固定観念でモノを考えていたかということを思い知らされました。

歌磨呂さんの作品は、例えばマンガでも、アメコミではなく日本のカルチャーからの影響が強いように感じるんですね。色で影響を受けたマンガやアニメはありますか?

ガンダムのカラーリングですかね。僕、実は色盲なんですけど、ガンダムのあの三原色の感じは分かりやすくて好きでしたね。

自分が色盲であることはいつ気付いたんですか?

小学校1年生の時の写生会みたいなもので全員の肌を違った色で書いたらしく、親が「おかしいな?」と思って、病院に連れて行かれたんですよね。それで色の検査をしたら、色が見えていなくて色盲だと分かって。例えば、シューティングゲームの敵の玉の色とかわからなくてクリアできなかったり 、色の変化がほとんど分からないんですよ。ドラゴンボールのピッコロ大魔王もずっとオレンジだと思っていましたからね。「ちょっと日焼けしてる感じかな?」っていうぐらいのイメージで。緑とオレンジが同じに見えてしまうから、基本的には明度で見ちゃうんですよね。

歌磨呂さんが今着ているド派手な服も緑ですよね。

この服は自分がパソコンで作っているから緑だと分かるんですけど、人から「オレンジだよ」って言われたら、「え!マジで?緑だと思ってた...」みたいな感じに衝撃を受けちゃうんですよね。だから「これは何色だ」って決定打を言える自信がないんです。「茶色系かオレンジ系?」と答える感じですね。でも僕にしてみれば、それは英語が喋れない日本人の感覚に近いと思っていて。頑張って片言の英語で会話したのを思い出してみると、意外とコミュニケーションが出来ていたみたいな瞬間があるじゃないですか。あの感じに近いというか。

細かく色の見え方が違うんですよね。

色盲の話は友達ともよくするんですけど、中にはその構成されている色が原色でバラバラに見えるやつがいたりして、「コーヒー何色?」って聞いても全員違うんですよね。大きなブロックみたいなもので仕切られていたとしたら、僕は端っこのほうにいる感覚というか。でも普通に生きてきて、「あの色きれいだなぁ」みたいな印象は残っているんですよ。

逆に、記憶として色あせなくインプットされているんですね。

そうですね。「緑っぽくして」とか指示があっても、パソコン上でパーセンテージを調整したり、絵の具のチューブにも何色って書いてあったりしますし。僕は明度が強く見えるんで、黒と白のバランスで全体を構成していくというか、この色とこの色を混ぜるときれいに見えるという判断は結構出来ますね。逆に言うと、色がウィークポイントであることに対して、自分の中の感覚を反芻してきたから、そこに対する集中力はかなり高いと思うんですよ。常に「色が分からない。どうしよう...」って探っているから、逆に武器として見るしかないですよね。だから今回のインタビューのお話をいただいて、「色盲の俺がやっていいの?」と思いましたけど、「全然いいっしょ」みたいな感覚でいようと。そうやって、強みにするしかないっていう感じですね。

お話を伺っていると、すごくポジティブに受け入れていますよね。色盲がご自身のコンプレックスやネガティブな要素だとは思わなかったんでしょうか?

美大の入試の話なんですけど、僕の受験した科の試験で花を描いたんですよ。そういった事実に忠実に再現することになると、「やばい、緑ってどれだっけ...?」って途端に脂汗が出てきて、あれには焦りましたね。カラーチップ選びもめちゃくちゃ大変ですよ。色見本で選んでくれって言われても分かんないんですよね。あとは人と話していて、「あの赤いの見て」って言われると、僕には赤が全然分からないから、結構パニックになりますね。いきなり目が見えない感じになるというか。だから、「赤い〜を〜して下さい」っていう指示は難しいですよね。信号の色も全く分からないですし。

ということは、位置で見分けているんですか?

そうそう。そうやっていると学習能力が備わってくるんですよ。僕は広告系だったから色の見方は印刷のCMYKの四色が基準なんですけど、色はパソコン上だとパーセントで選ぶじゃないですか。なんとなく「この色とこの色はきれいだ」みたいな感覚はあるんですけど、トライアンドエラーを繰り返してきたことで、「色はこういう風に出来てるんだ」って分かってきて。そしたら自分独自の色の判別の仕方が培われてきたんですよね。

例えば、どんな感じにですか?

青と紫で迷ったとするじゃないですか。その時は赤を画面上に持ってきて、赤に近く見えるほうが紫だなって判別するんです。オレンジと緑で迷った時も赤を持ってくる。オレンジのほうが赤に近いじゃないですか。なんか反発して見えるなと思ったら、「反発していない方がオレンジだ」って分かりますし。でも、オレンジと緑の中でも濃い緑と赤は同じに見えちゃうんですよ。他にも水色とピンクも一緒に見えるし、灰色と水色とピンクも結構一緒に見えますね。

色によっては難しいケースもあるんですね。ところで、歌磨呂さんのカラフルでポップな色を敷き詰めるテキスタイルの作風は、どのように培われたものですか?

6年前に旅行でメキシコに行った時に、フリーダ・カーロの家がすごく派手だったんですよ。めちゃくちゃきれいなブルーで、黄色とかピンクも使われていて。その印象を色で再現してみようとしたのがきっかけで、今の僕の色使いは思い出とリンクしてるんですよね。あとは光の再現ですね。色って一番明るい色が白じゃないですか。でも光って白じゃないですよね。光を色で再現するためにどうしたらいいのかは、すごく考えます。二次元の画面では白が一番明るいけど、光は白よりももっと明るいじゃないですか。

ある程度、ご自身の中で作品の進め方が決まっているんでしょうか?

お題のビジュアルを考えていくと、黒ベースか白ベースかという視点があるんですよ。黒い雰囲気の中に色を乗せていくのか、白い雰囲気の中に色を染みさせていくのか。ビビッドなものは黒いベースのほうが多いですね。黒の場合はネオンみたいなイメージでやっていますね。光でイメージして、暗い中に光があるのか、光の中に闇があるのか。その反対の色で色彩構成のバランスをとっていますね。あとは自分が色盲だということを分かっていると、色相を変えたグラデーションを使えるんですよ。色相をバンバン変えるんだけど、それをパッと見るとグラデーションになっているというか、ミラーボール的と言ったらいいのかな。

ミラーボールってよく見ると、なんとなくグラデーションになっていますよね。

そうそう。これも美大の受験の話なんですけど、アクリル画紙に絵を描く平面構成という試験があったんですよ。たくさんの絵の具を使うのに、気付いたら受験直前まで12色だけしか使ってなかった(笑)。だから基本は絵の具を混ぜて色を作ったんですね。それがすごく独特な色使いで評価が高かったみたいで、多摩美(多摩美術大学)に入学してから、先生に「この色どうやって作ったの?」って聞かれたりしたんですよ。「参考資料を真似してやりました」って言ったら、全然違ったりして(笑)。そういったことからも、「こんな感じに見えているのかな?」というニュアンスは分かってきて。そうすると、ぶれないんですよ。だから最近は色に困ることはないですね。

歌磨呂さんはご自身の肩書きをイラストレーター、デザイナー、書記と紹介していますが、書記とはアートディレクターのことを指していますか?

そうですね。外国人が言うアートディレクターと、日本人が言うアートディレクターは意味が違うと思っていて。僕はアートディレクションとか監督っていう言葉が好きじゃないんですよ。説得力のある言葉で自分を表現したいなと思った時に、書記と語り部が当てはまってるなと。

書記と語り部という言葉からは、何かを伝える、後に残すという印象を受けますが、どんな意味で使っているのでしょうか?

例えばCDジャケットの仕事だったら、歌って聴く人の思い出がリンクしているんですよね。普段はJ-POPを聴かない人でも、売れてる曲は街で聞こえてくる機会が多くてなんとなしに憶えいたりしてて、ふとその曲を耳にするとその頃の情景がフラッシュバックしたりすることってないですか?それがたくさんの人の中で起こっているんですよね。しかもそれぞれの曲の世界観でその思い出の質も変わったりする。その曲を熱心に聴く人だけではなくて、もっと大きな範囲でその曲が世界にもたらす事って何だろう?って イメージしながらとか、この曲を聴いたらこんな雰囲気を思い出すんじゃないかということを考えてパッケージとして形に残したいんですよね。

記憶の中にプラスアルファを残したいという想いがあるんですね。

それを書記、語り部という感覚でやるようにしています。今つくるものって、2012年の今にしか絶対に出来ないものだと思うんですよ。だから、僕が吹き出しを使ったデザインをすることにも理由があって、僕がやる理由があって、今の自分だから出来ることは何かを考えて考えて捻り出しているんです。ある種、一歩引いてみて、記録係みたいと捉えてる感じですね。

ご自身の役割が明確なんですね。

例えば、ミュージシャンと一緒に仕事をする時は、まず僕のことを好きになって欲しいって想いがあって逆も然りで。ちゃんと僕を理解してもらうというか、僕がそのプロジェクトに入ることに意味があって、役割とかコミュニケーションとか立ち位置とかをはっきりさせて、みんなで記録を作っていく。そういう感覚でやっていると、絶対にミスらないし、みんなが納得するものになるんですよね。無駄の無いリレーションシップが得られて「またやりましょう」ってなりますし。みんなで生きているという感覚があるんですよね。例えば道を歩いてて、反対から人が歩いてくると僕は半歩しかどかないようにしてて。半歩だけどくとぶつかるんですけど、相手も半歩ゆずれば一人分あくからぶつからないんですよ。皆の道だから皆でゆずりあおうぜって感じで。まあほとんどぶつかりますけど(笑)。

冒頭にお話しいただいた、コミュニケーションツールとしての絵を描くことが、今ののご自身ともリンクしていますよね。

たしかにそうかもしれない。僕はたくさんの色を使った構成が得意、というかそれしか出来ないっていうか。色に縛られないから、迷わずバンバンいける。ある程度は明度で構成出来るから、全体のバランスを把握しながら進めます 。この色にはこの色みたいな色の制約も僕にはないんだと思いますね。分からないからこそ出来る自由さがあるというか、逆にドーンと構えていられる。蚊帳の外という感覚が逆にいいのかなとは思いますね。

最後に、歌磨呂さんはTOKYO DESIGNERS WEEK 2012で東洋インキの出展ブース『ファンタジーウォール』でパフォーマンスを行いますが、当日への意気込みを聞かせて下さい。

僕がパフォーマンスをする11月3日(土)4日(日)に会場に行って、その状況を見ながら色の全体のバランスを構成していくと思うんですよね。『ファンタジーウォール』はインターネットカルチャー的自然発火を目標にしていて、みんなが自由にやっていくっていう民族移動みたいなものにしたいんですよ。何が起きるかわからないっていう。お客さんが貼ったステッカーが何か大きなラインみたいなものになるのかもしれないし、そこには色んな人の感覚がリンクして、自然に出来上がったディレクションみたいなものがあると思うんですよ。

お客さんとのインタラクティブな関わりから、どんなものに仕上がっていくのか楽しみですね。

例えば、最終地点にこれがありましたみたいなものをドンと置くとか、もしくはそこに導くためにこんなラインを作るとか、そういう遊びを入れるかもしれないです。もしかしたら、「ダサいなぁ」と思って、全部消しちゃうかもしれませんけどね(笑)。あとはやっぱり書記の役割を考えると、アーカイブとしてかっこよく残すという責任感がありますね。その場のことも大事なんですけど、圧倒的にアーカイブとしてどんなものを残すかということを意識しています。

楽しみにしています、今日は貴重なお話ありがとうございました!


プロフィール

ファンタジスタ歌磨呂 / イラストレイター、テキスタイル・グラフィック・映像アーティスト

www.fantasistautamaro.com

国内外で作品を発表するファインアーティスト。力強いラインと躍動的な色で純粋に感情を表現する。表現メディア、舞台は広く、その全てにおいて自身を強く表現している。