ヘンキ・レオン (Henki Leung)

アーティスト・クリエイターが彩る色彩の世界

開催中の「TDW2013」のアートワークを手掛けるデザイナー、ヘンキ・レオンさんの影響を受けた〈色〉とは?

ヘンキさんの作品はポップな色使いのものが多いですよね。ご自身としても、そういった類の色が好きという印象を受けるのですが、実際はどうなのでしょうか。

昔は青とかクールでボーイッシュな色が好きでしたね。でも、プロのデザイナーになってからはオレンジや黄色みたいな暖かくて明るい色が好きになりました。
気が付いたら明るい黄色のパックパックとか、明るいオレンジ色のスニーカーやスウェットを買い始めていたんですよ。ロンドンで働いていたとき、壁一面オレンジのミーティングルームがあったんだけど、とても居心地が良くて、ハッピーでポジティブな気持ちにしてくれましたね。

アイデアも出しやすかった?

そうですね。明るい色は僕をポジティブな気持ちにしてくれるし、僕の作品はポップだったりカラフルだったりすることが多いですからね。
子どもの頃からずっと明るい色は好きでした。赤・黄・青みたいな原色とか。僕自身、その頃からあまり成長していない気がします(笑)。気持ちの中では子どものままというか、子どもたちが惹かれるような明るい色に惹かれちゃいますね。
小さい頃からそういった明るい色使いのおもちゃとかお菓子やキャラクターが好きで、そういうテイストは僕の作品にもかなり影響していると思います。

なぜカラフルな色使いのデザインを心掛けているのですか?

僕は自分の作品を通して人々を幸せにしたいと思っているんです。デザイナーの多くは他のデザイナーと競うため、自分自身のためにデザインを作ったりします。
それも悪くはないんだけど、作品を見た人が「わぁ、これかっこいい!」って笑顔になってくれるのが、僕にとって何よりの幸せなんですね。自分自身、クライアント、他のデザイナーよりもまず、一般の人の感想が大事なんです。
「幸せになりたい」のはみんな一緒じゃないですか。だから、なるべく多くの人を笑顔にできればと思っていて。

「幸せな気持ちになれる色使い」という意味で、影響を受けた人物や作品はありますか?

16歳か17歳で美術学校に入ってデザインを勉強し始めた頃、田中一光や福田繁雄のような日本のグラフィックデザイナーからは、かなりインスピレーションをもらいましたね。

田中さんのデザインは、カラフルだけどシンプルで、そのシンプルさに惹かれました。ミニマルなデザインだけど形が凝っていて、動きがあったりダイナミックだったりして、ストーリーが見えてくる。
三原色と白黒だけを使ったシンプルなポスターとかは今でも印象に残っていますね。

ヘンキさんのオフィスの向かいに無印良品がありますけど、立ち上げの頃から田中一光さんがアートディレクターを務めていたのはご存知ですか。

もちろん!お昼休みにインスピレーションをもらいに行ったりしますよ(笑)。カフェもありますしね(笑)。中学の頃、美術のクラスで、他のクラスメイトの間ではダリとかのシュルリアリスムが人気だったけど、僕は余白が多かったり、色使いが明るかったりするポップアートに夢中になったんです。
アンディ・ウォーホルだったり、クレス・オルデンバーグみたいなね。オルデンバーグは「ソフト・アート」と呼ばれるものを多く作っていたのですが、遊び心たっぷりで、巨大なクッションでできた柔らかいドラムキットとかを作っていたんですね。映画「サイコ」のタイトルロゴをデザインしたポール・ランドも、シンプルかつカラフル。それでいてすごく力強いデザインを作るので、彼の作品も好きですね。

カラフルな色を扱う上で意識していることはありますか?

例えば、そこに飾ってある作品(KDDIのiidaブランド初のスマートフォン「INFOBAR A01」の壁紙とジャケット)はすごくシンプルだから、かなり慎重に色を選びました。このキャラクターなんてボディの色を除いたら、目の黒しかないですしね。どのピンクを使えば一番インパクトを与える仕上がりになるかとか、この2体は兄弟で小さい方がお兄さんという設定なんですけど、その関係性を描くにはどういうバランスが良いかとかを考えました。
基本的に2色以上は使いたくなかったから、足元の白い森はキャンバスの端に追いやって。とにかくキャラクターに目がいくようなバランスを考えて、次に「ああ、この2体は森の上を歩いているのか」と後からわかるようにデザインしたんです。

「シンプルでインパクトのある作品」というのはクライアントワーク、プライベートワークでも、一貫しているテーマなのでしょうか。

ほとんどテーマになっていますね。日本的な余計なものを省いていくスタイルに昔から興味があって、その影響もあると思います。本もシンプルな装丁が好きですし、畳の和室とかも好きですしね。

ヘンキさんは2010年から活動拠点をロンドンから東京に移していますが、その背景にはデザイナーとして日本から受けた影響が大きいのでしょうか。

デザインに限ったことではなくて、日本で普通に生活してみたかったんです。それこそママチャリを漕いで、中野ブロードウェイに行くようなシンプルな生活を経験してみたかったというか(笑)。 ああいったサブカルチャーからはたくさんインスピレーションをもらっていますよ。

以前から日本にはよく来ていたのですか?

大学二年生のときに交換留学で札幌に住んでいたんです。「美専」っていう専門学校なのかな?そこに通っていましたよ。留学担当者も僕にどんなクラスを取らせれば良いのかわからなかったみたいで、とりあえずイラストレーションと映画制作のクラスに入れられました(笑)。あと交換留学をしていた夏に、札幌のデザイン事務所でインターンシップもやりました。その後も付き合っていた彼女が苫小牧に住んでいたから、ロンドンから何回も行きましたよ(笑)。

大恋愛じゃないですか(笑)。札幌自体はご自身で選ばれたのですか?

札幌のことは日本に来るまで全然、知らなかったんですよ。当時はとにかく日本に住んでみたかったから、交換留学のプログラムに申し込んだんです。実際に来てみたら、思っていたより寒かったですけどね(笑)。
でもすごくきれいな街ですよね。最後に行ったのは3年前かな?札幌のD&DEPARTMENTで働いている友達がいて、会いに行きました。

一方で東京という都市は情報量が多ければ、街で使われている色の数もすごく多いと思うんですね。世界的にみても珍しい都市だと思いますし、日本に住むようになって、東京故に受けている影響はありますか?

街から得るエネルギーは、制作へのモチベーションになっていますね。色使いについても、街で見かける看板とかキャラクターの細かい配色なんかに影響を受けることはあります。
例えば、日常生活で見かけるようなガソリンスタンドのポスターとか。年季の入ったコインランドリーの看板とかのレトロな感じも好きですよ。

東京に拠点を移す前後で作風が変わったということはありますか?

日本に来てから3年が経ちますが、まだ特にないですね。まだまだ行きたい場所もありますし、見たいものもあるから、今後どうなるかはわからないですけどね。

最後にヘンキさんがアートワークとロゴデザインを担当している『TOKYO DESIGNERS WEEK』(TDW)について聞かせてください。昨年に続いての大役となりますが、まず今年のデザインコンセプトを教えてもらえますか?

今年のTDWはデザインだけではなく、アートや音楽もカバーしているんですね。タイトルも「CREATIVE fes」ですし、クリエイティブなものをなるべく広くカバーするデザインを意識しました。
フォントもタイプフェイスも色も一文字ずつ違うものを使っていて、例えばSの文字にはピアノの鍵盤をあしらって音楽を表しているんです。デザイナーだけじゃなく、一般の人たちでも来られるようなお祭りになればいいなと思ってデザインしました。

去年は会場にも足を運ばれたんですか?

もちろん行きましたよ。毎日行ったから、ちょっと行き過ぎたかもしれないですね(笑)。見るものがたくさんあって、かつ僕は一つひとつをじっくり見ていくのが好きなので、例えば、建築みたいな僕がやらない分野でも、とても興味深いブースがたくさんありましたよ。たしか東洋インキのブースはステッカーのやつ(「ファンタジーウォール」)ですよね。たくさんの人がステッカーを貼りたくっていて、通りがかるたびに面白いなぁって思いました。
ただ見るだけのブースとして出展しているのではなくて、お客さんがインタラクティブに楽しめる仕掛けがあって素晴らしかったですね。あのステッカーだらけの壁の写真を撮って、一時期iPhoneの壁紙にしていましたよ。

ヘンキさんはTDW以外にもデザインフェスティバルに足を運ばれてきたと思いますが、他と比べてTDWにはどんな特徴がありますか?

そんなにたくさんは行ってませんが、ロンドンでやっている「デザイナーズ・ブロック」は、クリエイティブな人たちのみを対象にしたようなイベントでしたね。TDWは「デザイナーだからこそ楽しめるようなイベント」じゃなくて、学生も参加するし、誰が行っても楽しめるようになっている。去年はデザイナーじゃない友達も連れて行きましたけど、彼らもかなり楽しんでいましたよ。

TDWのビジュアルを担当するクリエイターである一方で、ご自身がデザインされているロゴなども、ヘンキさんの中ではTDWの出展作品の一つみたいな意識はあるのでしょうか。

ロゴはブランディングに貢献しますし、アイデンティティを確立させるという意味でも、そういう意識はありますね。看板やポスター、バナーなんかにも使われたり、参加者に配布される袋にもプリントされることによって、会場の外でも人目につきますし。
様々なジャンルの出展作品を「フェスティバル」という枠でまとめて、一丸となったさらに強いものにするような役割になっているんじゃないかな。だからこそ、シンプルで力強くて、なるべく多くの人の目につくようなデザインにしました。

会場に来てくれるお客さんやTDWを認識する人たちにとって、TDWのデザイン要素の中で、ヘンキさんのアートワークやロゴを最も目にするかもしれないですもんね。

そうですね。去年のタイトルの「HELLO DESIGN!」も、参加者への配布物やスタッフのTシャツなんかにもプリントされて、「よく目についた」っていう声がありましたね。かなり良いフィードバックをもらえたから、今年もまた大役をいただけたのだと思いますよ(笑)。

今日は貴重なお話をありがとうございました。


「色」について貴重なお話を伺ったヘンキさんがロゴデザインやビジュアルを担当した『Tokyo Designers Week2013』はただ今、明治神宮外苑絵画館前会場にて開催中(2013.10.26(土)〜11.04(月・祝))。
私たち東洋インキも「DESIGN NEXT展」「コンテナ展」に出展、並びに〈ASIA AWARDS〉に「東洋インキ賞」を設け参加しております。

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/TDW


プロフィール

ヘンキ・レオン (Henki Leung) / クリエイティブ・ディレクター

2000年、英国プリモス大学卒業と同時にロンドンを拠点とするデザイン会社Airside(エアサイド) にてデザイナーとしての活動をスタート。
エアサイドでは、グラフィック、イラストレーション、デジ タル、インタラクティブ、映像などあらゆるメディアに対応したデザインを提供し、D&AD、Bafta、デザインウィークアワードなどに於いて多数の受賞作品を生み出すなど、デザインの中核を担ってきた。
また、大学やデザイン学校でのワークショップやレクチャー、各種デザイン賞の審査など、作品を生み 出す以外でもロンドンのクリエイティブシーンに貢献するも、2010年秋、エアサイド初の海外拠点 を確立する為に活動の場を日本へと移し、翌2011年5月に株式会社エアサイド日本をマネージン グ・ディレクターの土屋弘美と共に創立。
現在は日本にいながらUKデザインを発信するクリエイティブ・ディレクターとして活動している。