増田セバスチャン
アーティスト・クリエイターが彩る色彩の世界

増田さんが提唱するビビッドな“Kawaii”文化の「色彩」について伺いました。
原宿から世界を魅了する"Kawaiiカルチャー"。今や世界共通の言語となり得る日本独自のカルチャーのパイオニアとして知られるアートディレクター、増田セバスチャンさんに聞く、ビビッドな色使いに込められたメッセージとは。
まずは増田さんの好きな色とその理由について教えてほしいのですが、多色を使って表現するクリエイターなので言い切れない部分もあるのかなと思っていて。
いや、そんなことはなく完全にありますよ。ピンクと黄色です。人にとっての白と黒という基本色があれば、僕にとってのそれがピンクと黄色なんです。その二色から構成していきます。僕は色と衝撃をテーマに作品を作っているんですが、人の脳内に直接響く色というのがピンクと黄色。色を通して訴求力の高いものを作品にしていくので、その意味で欠かせない色なんですね。
ピンクと黄色と言っても濃淡がありますが、増田さんがよく使っている鮮やかなものを指しますか?
そうですね。ショッキングピンク・彩度の高い黄色です。僕は作品を作るという行為はメッセージをビジュアル化することだと思っていて。何が色使いのルーツになっているのかというと、僕は小さい頃に商店街で育っていて家業が呉服屋さんだったんです。小学校から家に帰ってくると、子どもが店にいると商売の邪魔だからということで、とにかく商店街で過ごしていたんです。親から100円を持たされて、小学生くらいだと5時くらいにはお腹が減るじゃないですか。でも家がお店をやっていると夕飯は9時くらいなので、当時好きだった駄菓子屋さんやおもちゃ屋さんで夕飯まで過ごしていましたね。1970年代だったので、おもちゃのパッケージは演色ベタ刷りのものが多かったんです。そういったものに囲まれているだけで、なにかすごくワクワクしたんですよね。その商店街やお祭りの屋台が並ぶカラフルな感じが色の原体験になっています。でも、色本来の持つ凄さに気づいたのは40歳を過ぎてからですね。
へえ、わりと最近の出来事なんですね。増田さんは幼い頃に耳にハンディキャップを負っていたと聞きました。それと引き換えに色彩感覚が独自の成長をしたのかもしれないとおっしゃっていましたが、研ぎ澄まされていくような感覚はご自身の中でも明確だったのでしょうか。
4歳くらいまで難聴で耳の管が人よりも細かったんですね。でも成長するに従って広がっていったので今は大丈夫ですけれど、高い音は少し聴きづらいこともあります。人間は五感で情報を入れていますけど当時の僕は視覚で聴覚の情報を補っていたのかもしれません。だから視覚として記憶されている情報量は人よりも多いと思いますね。なんというか、知らず知らずのうちに色についての英才教育を受けていたという感じです。


なるほど。作品の中ではピンク・黄色をベースにする以外に何かご自身だけの色のルールはありますか?
それも全然ないです。最近ひとつ面白いエピソードがあって。色彩研究の専門家の方で僕の色彩を分析してくれた方がいるんです。美術を色彩の観点から研究する方なのですが、僕の色彩をコンピューター上で分析したそうなんです。そこからわかったことは、西洋の絵画はほとんど3Dで色が配置されているけれども日本の場合は2Dが多い。僕の作品は大和絵や十二単と近いルールを持った色彩配列だということがわかったそうで。なので、なぜ僕が海外からの受けが良いのかを科学的根拠から紐解くと、海外の人にできない配列だからだと思うんです。もしかしたら浮世絵と同じような感覚で僕の作品は見られているのかもしれなくて。僕が提唱してきた"Kawaii"という独自の文化は最近になって認知されてきたものですけど、実は我々のアイデンティティの中に刷り込まれていた色彩なんですね。

原宿初の観光案内所「MOSHI MOSHI BOX」に設置された世界時計のモニュメント。増田セバスチャンの作品シリーズ「Colorful Rebellion」(=色彩の反抗) の手法を用いて原宿の街を真俯瞰で見た時のイメージで製作。
■もしもしにっぽん「MOSHI MOSHI BOX」
所在地:東京都渋谷区神宮前 3丁目 23-5 Ts ONE ビル
営業時間:10時~18時(予定)
運営:もしもしにっぽんプロジェクト実行委員会
すごく興味深いお話ですね...。増田さんの中にはそういったアイデンティティがあって、無意識のうちに現代の色彩で浮世絵のような色彩配列を表現していた。しかもそれは僕らが持っている感覚なんですね。
そうなんですよ。僕の色彩感覚は新しいものだと見られるけど、実は400年くらい前から続いてきているものだという。もしかしたら、当時だったら琳派の一人に数えられていたのかもしれない(笑)。皆さんは「Kawaiiってこういう感じでしょ?」と決まったものを思い浮かべるかもしれませんが、実はものすごく深いものなんです。



2015年2月に、アメリカ・ニューヨークで行われた初個展『"Colorful Rebellion" -Seventh nightmare- 』で展示されたタイトル作品。「色彩の反抗」という意味で、今までの原宿の街に対する風景画・街に集まる女の子の心象風景を表す作品。
ご自身として勇気付けられる発見だったとも思うんです。増田さんは原宿というカルチャーエリアを拠点にする最先端のクリエイターなので、それ故に賛否両論分かれやすいクリエイターでもあると思うんです。
そうですね、批判は少なくはないです(苦笑)。「Kawaiiは女の子、子ども向けなんでしょう?」という声がある中だからこそ、科学的根拠を得られたというのはかなり僕にとって大きいんですよ。もうひとつエピソードがあるんですけどお話していいですか?
もちろんです。是非聞かせてください。
最近、"地球と環境にやさしい"がセールスポイントの化粧品メーカーさんのビジュアルを作るお仕事をさせていただいて。なるべく地球にやさしい素材で構成してほしいというリクエストをいただいたんです。意外とそれに当てはまるものは世の中に少なくて、「どうしよう...?」と悩んだ末にオーガニックコットンを染色する絞り染めの技術などを突き詰めていったら、伝統工芸にぶち当たったんです。最近僕は京都や金沢など伝統文化が息づいている土地でのプロジェクトに多く関わっているのですが、日本古来の鮮やかな顔料はすごく綺麗だけどなぜ現代で見る機会が少ないのかというと、現代、普段着ではなく正装としての着物がオーダーメイドされていく中で、どうしてもお客さんは渋い色を選びやすいからなんだそうなんです。だから伝統工芸師さんも渋い色以外の色使いの技術をなかなか発揮できなくて、表に出にくいものになっていた。僕はやはり色が持つインパクトを基準に選ぶので、自然な方法でこの色を再現するにはどうするんだろうと色々試していたら、川に流しても環境破壊にならないような染料でコットンを染めていて、気がつけば伝統工芸に近いような方法に辿り着いたんです。


浮世絵の色彩感覚とリンクするお話ですね。色を探していくとルーツにぶち当たることが多くなってきているというか。
そうなんですよ。ちなみにそのプロジェクトでは、オーガニックコットンを顔料で染色する以外は和紙と羊毛などを使ってビジュアルを作っています。実は自然界にあるもの、「ナチュラルカラー」は実際イメージよりも遥かにビビッドなんじゃないかと思っていて。今回のように、自然界のものを使ってどういった色を出していけるかは、今後僕のアーティストとしてのメッセージに関わってくると思いますね。
みんなが忘れてしまっている色。僕が色を通して言いたいのは、子どもの頃に見ていた景色と大人になってから見ている景色の色彩は違うということなんです。それはなぜかというと、大人になるのと引き換えにいろいろなものを置き去りにしてしまっていて。世界には鮮やかなものが転がっているのに、自分の感覚が狭まって見えなくなってしまっているのかもしれない。
狭まるというのは、仕事や生活など生きるためのあれこれを考えるようになっているということですか?
そうです。もしかしたら白と黒しかよく見えていないのかもしれない。だから僕は鮮やかな色を使って、そのメッセージを伝えているんですね。
色には呼び起こす力があると思っていて。それは記憶だったり感覚だったり。そこから派生して、浮世絵や伝統工芸といった日本古来の文化とまで出会ってしまったという体験は、ビビッドな色使いに信念を持つ増田さんならではですね。先ほどご自身に対しての世間の反応を話してくれましたが、いわゆる良い意味で増田セバスチャンの作風に対する期待や固定概念を裏切りたいと思うことはありますか?
そうですね。やっぱりみんなが思い描いているイメージを覆したいという気持ちは強いです。
8月には増田さんがプロデュースする都内最大規模のカフェレストラン「KAWAII MONSTER CAFE」が原宿にオープンするそうですね。

2015年8月1日に原宿にオープンする増田セバスチャンのプロデュースによる「KAWAII MONSTER CAFE」。カフェとしても都内最大級の面積になるといい、店内にはスイーツ型メリーゴーランドなど"KawaiiI"カルチャーのモチーフを随所に採用。原宿だけでなく東京の新たな新名所を目指すという。http://kawaiimonster.jp/
「KAWAII MONSTER CAFE」はそれこそ色をテーマにしたレストランなんです。"Kawaii"という言葉が氾濫していく中で、僕の中では"Beyond the Kawaii"、つまり"Kawaii"を超えた"Kawaii"を見せるということをテーマに新たに置いていて。みんなが「どうせいつもの感じなんでしょ?」と言いたくなるところを「いや、甘いよ」と言い退けられる、それほどに変わったものを1000人規模で作っているのは前代未聞のプロジェクトだと思います。視覚的に"Kawaii"を体感できる場所ですが、表面的な可愛さよりも、人の内面にある欲望をえぐり出すというのはかなり意識していますね。

2020年の東京オリンピックイヤーに向けたアートプロジェクト 『TIME AFTER TIME CAPSULE』。
2015年から5年をかけて完成するパブリックアート作品であり、2014年12月にマイアミのアート地区・ウィンウッド展示以降、2015年はニューヨークを皮切りに世界10都市で行われる予定。世界各都市の公衆の場で開催される「自分だけのKawaiiもの(自分だけの小宇宙、個人的で特別な思い入れ)」を透明なタイムカプセルに納入するイベント、そこに集まる人々、納入されたカラフルな中身、そうして作られたタイムカプセルなど全てが作品となる。
最後に増田さんが今後、色を通じてやってみたいことを教えてください。
僕の「色見本帳」を作ってみたいです。僕が作るビジュアルは色の再現が難しくて、たとえば色を網羅している色見本帳でも欲しい色がなかなか見つからないんです。あとは現役を引退したら新しい色を見つけることにチャレンジしたいですね。それこそ色見本帳のように、「セバスチャンピンク」みたいな色が色彩における共通言語になるような。
プロフィール

増田セバスチャン / アートディレクター/アーティスト
1970年生まれ。
演劇・現代美術の世界で活動した後、1995年に"Sensational Kawaii"がコンセプトのショップ「6%DOKIDOKI」を原宿にオープン。
2011年きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」MVの美術で世界的に注目され、六本木ヒルズ「天空のクリスマス 2013」のクリスマスツリーや、原宿観光案内所 「MOSHI MOSHI BOX」の世界時計のモニュメントなどを制作。2014 年からニューヨークを拠点にアーティスト活動を開始。2015年夏現在はアートプロジェクト「TIME AFTER TIME CAPSULE」をニューヨークで開催中。